3月24日、第74回アカデミー賞授賞式が開催されました。注目の主演男優賞と主演女優賞は、黒人系俳優であるデンゼル・ワシントンとハル・ベリーが見事オスカーを手にしました。ハル・ベリーは、黒人初の主演女優賞受賞者となり、男優、女優とも黒人が受賞したことは、有色人種に不利と言われてきたアカデミー賞にとって歴史的快挙となりました。

授賞式で、ハル・ベリーが感極まりながら話す姿を見て、未だ存在する人種差別について考えさせられました。

1985年、それまでSF・アクションものを題材にしていたスティーブン・スピルバーグが、はじめて黒人女性の半生を描いた社会派ドラマの監督を手がけたことで話題になった映画、『カラーパープル』(The Color Purple) があります。これは、アカデミー賞11部門にノミネートされ、巷でも評価の高かった作品であったにもかかわらず、そのテーマが故か1部門も受賞しなかったことにより、逆に歴史に残るものとなりました。

『カラーパープル』は、ピューリッツァー賞を受賞したアリス・ウォーカーの原作を忠実に映画化したものです。描かれているテーマは非常に重く、黒人家庭におけるドメスティック・ヴァイオレンスが作品の前面をおおいつくしており、そこで絶望の淵にひとり呻吟する黒人女性セリーを『ゴースト』『天使にラブソングを…』で有名になったウーピー・ゴールドバーグが演じています。1900年代前半、アメリカ南部、ジョージア州の貧しい家に生まれたセリーは、父親の性的暴力により14歳という若さで2人の子供を生みます。その子供たち、そして最愛の妹ネティとも引き離された上、望まない結婚を強いられ、暴力亭主“ミスター”のもと、召使のような生活を送ります。しかし、彼女は強く生きる黒人女性歌手シャグという心強い友に刺激されて、失われた自分の人生を取り戻そうとします。そして、40年という途方もない歳月を経て、初めて自立を果たす瞬間は感動的です。

自立するということを意識したセリーは“ミスター”の元を離れる決心をします。そして、彼に向かって高々と言い放ちます。

Anything you've done to me, already done to you.
I'm poor, black and I may be ugly, but dear God, I'm here. I'm here!

(私への仕打ちは、全て自分へ跳ね返るわ。私は貧しくて、黒人で、その上醜いかもしれない。でも、神様、私は生きてる。生きているわ!)

美しい紫色の花が咲き乱れる花畑を歩きながら、神と自然についてシャグはセリーに語りかけます。

Everything wants to be loved. Us sing and dance, and give flower bouquets, just trying to be loved. Even trees. You ever notice that trees do everything to get attention we do, except walk?
(この世の何もが愛されたいと願っているのよ。私たちが歌ったり、踊ったり、花束を贈ったりするのは、愛されたいからよ。木だって私たちと同じように愛されるためにいろんなことをしているって気づいていた? 歩くこと以外はね。)

この映画では人種差別、性差別ほか、少女虐待の問題、家庭内暴力、とくに家庭内性犯罪の問題、インセストの問題がリアリスティックに描かれています。また、1900年代の前半、アメリカで黒人であること、さらに女性であることによる二重の差別の中で生きて行くことがいかに辛いことだったかがひしひしと感じられました。前半のシリアス部分、中盤の笑いをまじえたセリーの生活風景、そして怒涛の後半。少し長めの時間ながら、飽きを感じさせないのは、さすがスピルバーグというべきでしょうか。 また、ウーピー・ゴールドバーグの抑えた演技は見事だと思いました。

賛否両論のある映画ですし、日本人にはなじみの薄いテーマかもしれませんが、感動的なラストシーン、一面に咲き乱れる花、赤い土、青い空、白い服と黒い肌など、コントラストの効いた映像の美しさもあって心に残る映画となりました。
『カラーパープル』
The Color Purple (1985年米)

監督: スティーブン・スピルバーグ
出演: ウーピー・ゴールドバーグ
    ダニー・グローバー
     マーガレット・エイブリー
原作: アリス・ウォーカー

BGM: 映画『カラーパープル』のテーマ